手遊び歌のモチーフとなったこぶとりじいさんあらすじをおさらいすると、現代の絵本では次のように語られるのが一般的です。右の頬に大きなこぶがある心優しいおじいさんが、山で雨宿りをしている最中に鬼たちの酒盛りに遭遇します。楽しそうな雰囲気に誘われて見事な踊りを披露したところ、鬼たちに気に入られ、「明日もまた来い。証拠に一番大事なこぶを預かっておく」とこぶを取り除いてもらいます。それを聞いた隣の欲張りな爺さんが真似をして鬼の元へ向かいますが、下手な踊りで鬼を怒らせてしまい、預かっていたこぶをもう片方の頬にくっつけられてしまう、という展開です。
しかし、中世文学研究者が指摘するこぶとりじいさん原作の真相は、絵本のようなマイルドな勧善懲悪劇ではありません。この物語の原型は、13世紀前半の鎌倉時代初期に成立した説話集『宇治拾遺物語』巻第一の第三話「鬼に瘤とらるる事」に収録されています。
古典原典における日本昔話の結末を読み解くと、衝撃的な事実が判明します。原典において隣の爺さんは、絵本のように「宝物が欲しくて欲張った極悪人」として描かれてはいません。単に長年コンプレックスに苦しみ、「自分もこぶを取りたい」と藁にもすがる思いで鬼の前に出た一人の悩める老人に過ぎませんでした。しかし、極度の緊張と恐怖から手足が震え、無様な踊りを見せてしまった結果、鬼の頭領から「前のおじいさんの踊りとまるで違う。興ざめだ。前預かったこぶも返してやるからとっとと失せろ」と罵倒され、両頬に巨大なこぶをぶら下げられたまま泣き叫んで這々の体で逃げ帰るという、救いのない不条理劇として結ばれています。