ネガティブ戦略の破壊力を世界に見せつけた原点は、半世紀以上前に遡る。1964年のアメリカ大統領選挙において、現職の民主党候補リンドン・ジョンソン陣営が放ったテレビCM「デイジー・ガール(1964年政治広告)」は、広告史と選挙史の双方に深い爪痕を残した。
可憐な少女がヒナギクの花びらを一枚ずつ数えながらちぎる牧歌的な映像。突然、冷酷なカウントダウンの音声が重なり、少女の瞳のアップから画面は突如として核爆発のキノコ雲へと切り替わる。ジョンソンは対立候補の共和党バリー・ゴールドウォーターの名を一度も出さなかった。しかし、「彼が大統領になれば核戦争が起きる」という強烈な恐怖を有権者の脳裏に焼き付け、地滑り的勝利を収めたのだ。
自らの正当性を語るのではなく、相手への恐怖を刷り込む。この「デイジー・ガール」の手法は、古典的なプロパガンダの手法をテレビというマスメディアに適応させた瞬間であり、以後の政治広告における攻撃的アプローチの雛形となった。