球場全体のボルテージが最高潮に達するなか、打席に迎えた27人目のバッターは、9番のマーウィン・ゴンザレス選手でした。カウントを取りにいった初球、内角低めを狙った88マイルのフォーシーム(カットボール気味の球)をゴンザレス選手が見逃さずコンパクトにスイングします。
鋭く弾き返された打球は、ダルビッシュ投手の足元を鮮やかに抜け、センター前へと転がるクリーンヒットとなりました。111球目にして喫したこの試合初被安打。球場全体が大きなため息と悲鳴、そして直後に敵味方の垣根を越えた万雷のスタンディングオベーションに包まれました。あとアウト1つ、わずか数センチの差で「完全試合」という名の夢はすり抜けていったのです。
しかし、ヒットを打たれた直後、ダルビッシュ投手が見せたのは悔し涙ではなく、白い歯をこぼした爽やかな笑顔でした。後に本人は「悔しさはもちろんあったけれど、ここまで投げられた楽しさと、相手バッターが良いバッティングをしたことへの敬意があった」と語っています。プレッシャーから解放された人間味あふれるその笑顔は、アメリカのファンの心を一瞬で掴み、単なる記録未遂を超えた名シーンとして語り継がれることになりました。