極めて高い作画クオリティと叙情的な演出を誇りながらも、なぜ『星霜編』は一部のファンから「黒歴史」「伝説の鬱エンド」と評されることになったのでしょうか。その背景には、少年漫画の主人公に対するファンの期待と、作品が提示した結末との激しいギャップがあります。
最大の星霜編が鬱エンドと呼ばれる理由は、剣心が選んだ生き方の過酷さにあります。最愛の妻である薫と幼い息子・剣路を東京に残し、自らの肉体を顧みずに放浪を続けた結果、家庭を半ば崩壊させ、自らも不治の病で無惨に朽ち果てていく展開は、ジャンプ本誌で「不殺(ころさず)の誓い」を貫き通したヒーローの姿とはあまりに対照的でした。
特にファンを震撼させた要素として、以下の点が挙げられます。
- 英雄の無力化と老い:飛天御剣流の超人的な強さは失われ、足枷を引きずるように歩く衰弱の描写。
- 残された家族の苦痛:父の愛を実感できずに屈折した少年に育ってしまった息子・剣路の描写。
- 病の自己感染:愛ゆえとはいえ、薫が自ら致死性の病に感染するという壮絶すぎる自己犠牲。
過酷な人生を歩んだ剣心には、最後くらい平穏な幸せを享受してほしかったと願う読者にとって、この容赦のないリアリズムと破滅の美学は受け入れがたい衝撃を与えました。その結果、「完成度は極めて高いものの、二度と観る勇気が出ないトラウマ作品」としてファンの記憶に刻まれることになったのです。