近現代において世界中に大きな衝撃を与えたカニバリズムの事例には、人道的な同情を集めた奇跡の生還劇から、背筋の凍る凶悪犯罪まで、対照的な出来事が存在します。
生存のための極限劇として最も広く知られているのが、1972年の「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」です。チリに向かっていたラグビーチームとその関係者を乗せたチャーター機が、標高約3,500メートルのアンデス山脈の雪山に墜落しました。
氷点下数十度の極寒と雪に閉ざされ、食料が尽きた生存者たちは、生き延びるために死亡した仲間の遺体を食べるという苦渋の決断を下しました。遭難から72日後に16名が生還を果たしたこの出来事は、当初倫理的な議論を呼びましたが、カトリック教会が「生命維持のためのやむを得ない行為」として生存者たちを赦免したことや、生還者たちの強い絆が明らかになるにつれ、「アンデスの奇跡」として語り継がれています。
対照的に、猟奇的な犯罪として世界を震撼させたのが、アメリカのジェフリー・ダーマーによる連続殺人事件です。1978年から1991年にかけて17名の青少年を殺害したダーマーは、遺体を解体し、一部を保存して調理・摂取していました。彼が求めたのは相手への絶対的な支配と孤独の解消であり、現代社会における最も異常なサイコキラーの典型例として記録されています。
また、1981年にフランス・パリで発生した「パリ人肉事件」も国際的なセンセーションを巻き起こしました。ソルボンヌ大学に留学中だった日本人学生・佐川一政が、オランダ人女性の留学生を射殺して遺体を食べた事件です。フランスの司法当局による精神鑑定で心神喪失と判断され、不起訴処分となって日本へ送還されました。この事件は、人間の深層に潜む病理と法制度の限界を浮き彫りにしました。