漫画『ひよこの目』の物語終盤、主人公たちが迎える結末は、いわゆる紋切型のハッピーエンドとは一線を画す。恋人を失った柏葉博之の凍りついた感情が、朝子との関わりの中で完全に融解したわけではない。作品が提示したのは、癒えない傷を抱えたまま、それでも日常を一歩踏み出すという、生々しくも切実な人間の真実だった。
作中には、初読では見落とされがちな伏線が幾重にも張り巡らされている。例えば、視線の合わない会話の不自然さや、天候の急変が暗示する登場人物の内面崩壊など、台詞の背後に潜む暗喩は極めて緻密だ。ファンの間で長年囁かれてきた「博之の視力と感情の回復度合い」に関する仮説は、単なる視覚の再生ではなく、他者への受容性の段階的変化を示唆していたことが近年の考察でも裏付けられている。
劇的な奇跡を起こすのではなく、淡々とした時間の経過そのものを救済として描いた点にこそ、本作が衝撃作と呼ばれる所以がある。傷跡を消し去るのではなく、傷跡と共に生きていく覚悟。その結末の切れ味は、現代の読者にとっても鮮烈な痛覚と深い慰託を同時にもたらす。