大衆的な深海魚由来のえんがわが市場を席巻する一方で、伝統的な江戸前寿司の世界では、国産天然ヒラメのえんがわに対する畏敬の念が今なお色褪せることはない。
世界的名匠として知られる小野二郎の握りや哲学を追ったドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る (Jiro Dreams of Sushi)』(Netflixなどで世界配信)でも描かれているように、一流の職人たちは魚の仕入れから仕込み、温度管理に至るまで一切の妥協を許さない。天然ヒラメ一尾から握れるえんがわは、せいぜい4貫から6貫程度。常連客でも巡り合えないことがあるほどのプラチナチケットだ。
カラスガレイの濃厚でジューシーな脂とは異なり、天然ヒラメのえんがわは、繊細な甘みと清涼感のある香り、そして噛み締めるほどに溢れ出す重層的な旨味を備えている。職人が施す丁寧な包丁の切れ目と、赤酢のシャリが合わさることで、そのポテンシャルは極限まで引き出される。