土俵の最高責任者である「立行司(たてぎょうじ)」の装束を観察すると、腰の左側に短刀を差し、右側に印籠(いんろう)を提げているのが分かります。この短刀には、相撲界の長い歴史の中でも特に強烈な覚悟が込められています。
行司にとって最大の失態は「差し違え(誤審)」です。もし万が一、土俵上で誤った軍配を上げて勝負を差し違えてしまった場合、「その場で切腹して責任を取る」という不退転の決意を示すために短刀を帯刀しています。現代の大相撲において実際に切腹が行われることはありませんが、差し違えを起こした立行司は取組後に日本相撲協会へ進退伺い(辞職願)を提出するのが慣例となっており、その重圧と責任の重さは今なお受け継がれています。
一方、腰に下げる印籠は、かつて武士が薬などを携行した容器です。これは土俵上で力士が負傷した際に応急手当の薬を取り出すための名残とされており、同時に高い品格と実務能力を象徴する装飾具としての意味を持っています。