「診断書を持参したのに、警察官から『もう日数が経っているから受け取れない』『物損のままでも保険会社は治療費を払ってくれるからこのままでいいじゃないか』と追い返された」という相談は、交通事故実務の現場で日常茶飯事のように発生しています。
なぜ警察はこれほどまでに人身事故への切り替えに難色を示すのでしょうか。警察が人身事故への変更を拒否する理由には、警察組織特有の業務構造と法的な立証ハードルが存在します。
最大の理由は、事故と怪我の因果関係の希薄化です。事故発生から2週間以上が経過して初めて病院を受診した場合、警察側は「その首の痛みは、事故によるものなのか、それともその後の日常生活や仕事、別の運動などで痛めたものなのか立証できない」と判断します。刑事事件として加害者を過失運転致傷罪で検察庁へ送致(書類送検)するためには、合理的疑いを超えた厳格な証拠が必要となるため、因果関係が曖昧な案件を捜査官は極度に嫌います。
さらに、現場の証拠散逸も大きな要因です。物損事故の時点では、警察は簡易的なメモに類する「物件事故報告書」を作成するのみで、詳細なスリップ痕の測定やブレーキ痕の特定を行いません。数週間後に人身事故へ変更しようとしても、路面の痕跡や破片は完全に消滅しており、正確な検証が物理的に不可能な状態に陥っています。警察内部の業務量増大(過密な調書作成負担)を回避したい現場の心理も、消極姿勢に拍車をかけています。
もし警察に受理を拒否された場合は、以下の手順で突破を図ります。
まず、医師に受傷機転(事故の強い衝撃によって首や腰が過伸展・過屈曲した事実)をカルテおよび診断書の備考欄に具体的に追記してもらい、受傷時期と事故との関連性を補強します。それでも警察が拒絶する場合は、人身事故証明書入手不能理由書という救済措置を用います。これは、警察が人身事故への変更を受け入れない場合に、保険会社所定の書類に「警察が受領しなかった経緯」を記載し、加害者側保険会社へ提出することで、民事上の人身事故扱いとして自賠責保険や任意保険の保険金給付を維持する手続きです。ただし、刑事責任の追及や実況見分調書の作成は行われないため、根本的な解決を図るには弁護士を通じて警察へ法的根拠を示した上申書を提出させることが有効打となります。