検索エンジンで「胃カメラ 鎮静剤 死亡」と入力すると、関連ワードに「有名人」がサジェストされます。多くの受診者が「過去に著名なタレントや文化人が亡くなったのではないか」と検索している証拠です。大手メディアの事件アーカイブや過去数十年の公的医療事故判例を精査したところ、国内の著名人が通常の胃カメラ検診で鎮静剤によって死亡したと断定・公表された公式記録は存在しません。
火のない所に煙は立たないと言われるように、この噂がここまで定着した背景には複数の要因が複雑に絡み合っています。最大の要因は、過去に大きく報じられた麻酔薬関連の大規模な医療事故との混同です。
とりわけ世間に強烈な恐怖を植え付けたのが、2014年に発覚した東京女子医大病院でのプロポフォール過量投与事件や、群馬大学医学部附属病院での腹腔鏡下手術を巡る連続死亡問題でした。いずれも内視鏡単体の検査とは医療環境も対象患者の病状も異なりますが、「麻酔や鎮静剤で患者が死亡した」という衝撃的な見出しだけが独り歩きしました。さらに海外に目を向ければ、マイケル・ジャクソン氏の命を奪った主因がプロポフォールの不適切投与であった事実も、人々の記憶に「鎮静剤=命に関わる劇薬」という図式を焼き付けました。
芸能界でも、内視鏡検査でポリープが見つかって緊急切除した体験談や、鎮静剤の効き目が強すぎてパニックになりかけたエピソードをテレビ番組やYouTubeで語るタレントは少なくありません。そうした断片的な体験談と、時折世間を騒がせる有名人の急死のニュースがネット上で無秩序に結びつき、「胃カメラの鎮静剤で亡くなった有名人がいる」という都市伝説のような尾ひれがついたのが真相です。