ネット上の掲示板やSNSでは、今なお「事務所を辞めたら芸能界を干されるのではないか」という不安や噂が絶えません。この言説は、現在の芸能界においてどこまで真実で、どこからが誤解なのでしょうか。
結論から言えば、「業界全体で結託して特定タレントを完全に消し去る」という昭和・平成的な露骨な圧力は、実質的に不可能となりました。前述した公正取引委員会の継続的な監視に加え、民放キー局の編成局やコンプライアンス部門が「特定の事務所への忖度によるキャスティング排除」を重大な企業統治リスクとみなすようになったためです。実際に、独立後に自ら営業を行い、民放各局のバラエティや配信オリジナルドラマへ切れ目なく出演し続けるタレントは珍しくありません。
しかし、ここで警戒すべきは「能動的な圧力」ではなく「受動的な配慮・忖度」の残滓です。テレビ局のプロデューサー目線に立つと、以下の力学が今なお働きます。
「独立した個人タレントA氏を起用するために、大手事務所B社との関係を悪化させ、B社所属の人気アイドルや主演級俳優10名のキャスティング協力を失うリスクを冒せるか?」
番組制作の現場では、大手事務所が抱える複数の人気タレントをまとめて起用する「パッケージ提案」が長年の慣習となっています。単独で圧倒的な視聴率やスポンサー広告を引っ張れる特級スターでない限り、独立したばかりのタレントが大手事務所の所属者と同じ土俵で競い合おうとすると、自然とキャスティングの優先順位で後回しにされてしまうのが、現代における「見えない壁」の正体です。