健康情報を取り巻く言説の中には、医学的根拠を欠いた危険な俗説が定着しています。最も蔓延している誤解が「触って痛いしこりは良性で、痛くないしこりは悪性(がん)」という言説です。乳がんや胃がん、大腸がんなど初期の悪性腫瘍は無痛性であることが多いのは事実ですが、進行したがんが神経を巻き込めば激痛を生じます。逆に、良性の粉瘤(アテローム)が細菌感染を起こせば飛び上がるほどの痛みを伴います。痛みの有無だけで自己判断し、受診を見送ることは最も避けるべき危険な短絡です。
もう一つの盲点は、「血液検査ですべての異常がクリアだったから、画像に写った腫瘤も気にしなくてよい」という誤信です。前述の通り、固形がんの初期段階において血液検査の一般項目(肝機能、腎機能、血算)や腫瘍マーカーが異常値を示す頻度は極めて低く、画像検査で引っかかった影の免罪符にはなり得ません。画像で見つかった異常の決着は、画像と組織診断でしかつけられないのが医療の鉄則です。
【プロの結論】情報不安症候群に陥る人・冷静に対処できる人の判断基準
現代の医療現場で深刻化しているのが、ネット検索によって病気への恐怖を際限なく膨らませる「サイバーコンドリア(Cyberchondria)」や、最悪の結果のみを過大予測する「破局的思考(Catastrophizing)」です。医学用語としての腫瘤を正しく受け止め、健全な行動をとるための判断基準を提示します。
【危険なパニックに陥りやすい人の傾向】
- 健診結果の「所見欄」にある単語だけをGoogle検索し、個人の闘病ブログやセンセーショナルなまとめ記事を読み漁る。
- 「良性の可能性が極めて高い」という医師の説明を疑い、何軒ものクリニックを渡り歩いて同じ検査を繰り返す(ドクターショッピング)。
- 逆に「がんと宣告されるのが怖い」という回避防衛機制が働き、要精密検査の通知を放置して二次検査に行かない。
【医療を味方につけて適切に対処できる人の判断基準】
- 「腫瘤」は病名ではなく「影の存在確認」に過ぎないと割り切り、感情を交えずに指定された診療科の予約を即座に取る。
- 過去2〜3年分の健康診断結果票を保管しておき、今回の所見が「以前からある不変のもの」か「新たに出現したもの」かを医師に提示できる。
- 「白か黒か」の二元論に囚われず、「半年後の経過観察」という医学的な時間軸の選択肢を治療戦略の一部として受け入れられる。