ネット上のビジネス解説記事やSNSで頻繁に見受けられる典型的な誤解が、「問題をすべて解決すれば、組織の課題はゼロになる」という短絡的な思考です。これは大きな落とし穴と言わざるを得ません。
「問題解決」と「課題設定」は、次元の異なる営みです。問題解決は、マイナスの状態を起点として、ゼロ(正常な原状復帰)へ戻すための火消し作業です。設備故障の修理、納期の遅延対策、顧客クレームへの謝罪などは典型的な問題解決に当たります。
一方、課題設定とは、ゼロの状態からプラスの未来(新たな価値創出や変革)へ向かうために、あえて自分たちで基準を引き上げる行為です。ここには「現状、何も大きな不都合は起きていない」状態すら含まれます。
たとえば、現在の業務が滞りなく回っていたとしても、「来期の事業拡大を見据えて業務効率を30%改善する」「AIツールを導入して工数を半減させる」と決めた瞬間、現状との間に新たな「ギャップ」が人工的に生まれます。これこそが「課題設定」の本質です。
日系大手企業に長年根付いてきた「減点主義」のもとでは、目の前の火消しである「問題解決」ばかりが評価され、あえて摩擦を起こして高い目標を掲げる「課題設定」が敬遠されてきました。日本企業がDXや新規事業創出で諸外国に遅れをとった構造的要因も、まさにこの「問題解決には長けているが、未来の課題を設定する力が極めて脆弱だった」点にあります。問題がない平穏な組織ほど、実は「課題設定が放棄された危険な状態」にあるという視点を持たねばなりません。