聴覚に関する用語は多岐にわたり、しばしば混同されます。日常会話で用いられる言葉と、行政・医療で用いられる基準には明確な境界線が存在します。
まず押さえるべきは、聴覚障害者との違いです。「聴覚障害者」は、聴覚器官の機能障害によって聞こえに困難を抱えるすべての人を指す医学的・法的な包括用語(アンブレラ・ターム)です。その内側に、本人の自己認識やコミュニケーション手段に応じて「ろう者」「中途失聴者」「難聴者」といった個別のアイデンティティが存在します。
次に、中途失聴者と難聴者の違いおよびろう者との差異です。「難聴者」は、生まれつきまたは後天的に聴力が低下しているものの、補聴器や人工内耳を活用して音声言語(日本語)でのコミュニケーションを主体とする傾向があります。一方、「中途失聴者」は、一度は日本語を音声として習得した後に、病気や事故などで聴力を失った人を指します。思考の基盤が日本語(音声言語)にあるため、手話よりも要約筆記、文字表示、口話(読唇)を頼るケースが目立ちます。
これに対し、「ろう者」の多くは音声言語の習得前(乳幼児期)に失聴し、日本手話(JSL:Japanese Sign Language)を母語として育ちます。日本手話は日本語の文法とは全く異なる、独立した文法構造を持つ自然言語です。
また、公的福祉の給付を左右する聴覚障害等級と障害者手帳(身体障害者手帳)の基準も見逃せません。身体障害者福祉法施行令に基づき、聴覚障害は2級、3級、4級、6級の4区分が定められています(※5級は聴覚単独では設定されていません)。
- 2級:両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB以上(耳元で大声を出しても聞こえないレベル)。多くのろう者が該当。
- 3級:両耳の聴力レベルがそれぞれ90dB以上。
- 4級:両耳が80dB以上、または両耳が70dB以上かつ最高語音明瞭度が50%以下。
- 6級:両耳が70dB以上、または片耳が90dB以上かつ他耳が50dB以上。
厚生労働省の「生活のしづらさなどに関する調査」によると、在宅の聴覚・言語障害者数は全国で約34万人と推計されています。しかし、手帳を持たない軽度・中等度難聴者や高齢者の加齢性難聴を含めると、聴覚に何らかの不自由を抱える人口は国内で1,400万人規模に達すると専門学会から報告されています。