オープンキャンパスや大学案内で目にする「国家試験合格率98%」といった華々しい数字には、業界特有の構造的なカラクリが存在します。関係者の証言や現場のデータから、真実を読み解く必要があります。
厚生労働省が実施する救急救命士国家試験の合格率は、例年全国平均で85〜90%前後、新卒者に限れば90〜95%前後の高い水準で推移しています。これは各校が4年次(専門学校は3年次)に進級判定や卒業見込み判定試験を実施し、合格可能性の極めて高い学生のみを受験させている側面があるためです。つまり、一定水準以上のカリキュラムを真面目に修めた学生にとって、国家試験そのものは「落とすための試験」ではなく「合格基準を満たせば通る絶対評価の試験」と言えます。
しかし、救急救命士を目指す若者にとって本当の試練となるのは、国家試験の先にある自治体ごとの消防官採用試験です。総務省消防庁の報告書や各自治体の公表データによると、東京消防庁をはじめとする都市部の消防官採用試験の倍率は、年度によって6倍から15倍近くに達します。
救急救命士の資格を保有している場合、一部の自治体では採用試験の1次試験免除や加点措置が設けられているものの、それだけで採用が保証されるわけではありません。一般教養試験(数的処理・文章理解・社会科学など)、論作文、そして厳しい体力検査と集団面接を突破しなければ、救急車に乗ることは叶いません。大学の4年間という猶予期間は、過密な医療実習をこなしながら、この難関公務員試験対策にじっくり腰を据えて取り組むための「時間の確保」という決定的なアドバンテージを生み出しています。