「軌道敷内通行可」の標識がある道路を走行している場合でも、路面電車と同等の権利で走れるわけではありません。道路交通法第21条第2項および第3項は、一般車両に対して重い「路面電車に対する優先義務」を課しています。
後方から路面電車が近づいてきた場合、軌道敷内を走っている車両は「直ちに軌道敷の外に出る」か、あるいは「路面電車の進行を妨げない十分な距離を保つ」ことが義務付けられています。路面電車側から激しく警音器(ベルや電子警笛)を鳴らされたかどうかは関係ありません。バックミラーで接近を確認した時点で、速やかに左側の一般車線へ車体を逃がさなければならないのです。鉄のレール上を走る路面電車は、アスファルトを走るゴムタイヤの自動車に比べて制動距離が著しく長く、急ブレーキを踏んでも簡単には止まれません。この物理的限界が、絶対優先の法理を形作っています。
また、ドライバーが最も冷や汗をかくのが「右折」の局面です。中央に軌道敷がある道路で交差点を右折する場合、あらかじめ道路の中央、すなわち軌道敷の手前または指定された右折レーンに寄り、後方から接近する路面電車の邪魔にならない位置で待機するのが鉄則です。対向車が途切れるのを待っている間に背後から電車が迫り、警笛を鳴らされパニックに陥るドライバーの姿は現場で日常茶飯事となっています。軌道敷上で立ち往生する恐れがある場合は、無理に線路内へ頭を突っ込まず、直進対向車と路面電車の双方のクリアランスが確保できるまで手前で停止・待機する勇気が求められます。
なお、路面電車を追い越す際の作法も特殊です。道路交通法第29条において、路面電車の追越しは「その左側を通行して行わなければならない」と定められています。レールが道路の左端に寄っているなど例外的な構造を除き、通常の車両のように電車の右側(対向車線側)から追い越すことは厳格に禁止されています。