「子どもの頃から通っていたあの惣菜屋が閉まっていた」「看板が掛け替えられていてショックだった」――SNSや地域コミュニティ掲示板で時折見かけるこうした声は、一見すると地方商店街によくある衰退の兆候のように映ります。しかし、須磨区の商業統計や現地での聞き取り取材を進めると、板宿本通商店街の閉店理由の本質は、顧客離れによる売上不振とは根本的に異なる構造的要因にありました。
最大の要因は、創業から半世紀以上を数える老舗店主たちの「引退と事業承継」です。高度経済成長期から昭和後期にかけて商店街を牽引してきた世代が80代を迎え、後継者不足や店舗建物の老朽化を契機に勇退を決断するケースが集中しました。関係者への取材によると、「黒字経営でありながら体力の限界で暖簾を下ろす決断をした店舗」が複数存在していたことが分かっています。つまり、街の活力が失われたのではなく、世代交代の転換期が一気に訪れたというのが客観的事実です。
さらに注目すべきは、空き区画が生じた後の動きです。一般的な衰退商店街ではシャッターが閉ざされたまま放置されるのが常ですが、板宿では募集から数か月以内に新たなテナントが名乗りを上げています。若手オーナーによるベーカリーやスペシャリティコーヒー専門店、トレンドを取り入れたスイーツ店、あるいは地域医療を支えるクリニックなど、板宿本通商店街に新店舗がオープンするサイクルは極めてスピーディーです。「閉店」という言葉の表面だけを捉えて衰退と決めつけるのは、現場の実態を見誤る典型的な早合点と言わざるを得ません。