日本人の固定観念と現地の食実態との間には、いまだ根深い誤解が横たわっています。その代表例が前述した「ナン信仰」ですが、スイーツに関しても強烈なカルチャーショックを受ける旅行者が後を絶ちません。
「世界一甘いお菓子」としてネット上で語り草となっているグラブジャムンや、揚げた生地をカルダモン風味のシロップに漬け込んだジャレビを口にした日本人の多くは、「脳天を突き抜けるような甘さ」「罰ゲーム級の糖度」と評します。しかし、インドスイーツ甘い理由を単なる嗜好の問題として片付けるのは短絡的です。ここには、過酷な自然環境と宗教的儀礼が織りなす必然的な合理性が存在します。
第一の理由は気候的要請による保存性です。夏季には気温が45℃以上に達する北西部の乾燥地帯において、食品の腐敗を防ぐ最大の武器は高濃度の糖分でした。水分活性を低下させる超高糖度のシロップ漬けは、冷蔵技術が存在しなかった時代に生み出された貴重な保存技術です。
第二の理由はアーユルヴェーダ(伝統医学)の生理学的解釈です。猛烈な暑さで体力を消耗した身体に対し、消化器に素早く負担なくエネルギーを補給する手段として、高純度の糖分とギー(精製乳脂肪)の組み合わせは「オージャス(生命エネルギー)」を高める最良の強壮剤とみなされてきました。さらに、ヒンドゥー教の神々に捧げる供物(プラサード)において、乳製品と砂糖は神聖かつ純粋な物質の象徴とされており、祝祭の場では惜しみなく甘味を振る舞うことが徳の高い行為と信じられているのです。