現在、美術館の解説パネルでは正式名称である『ポッピンを吹く娘』と表記されることが通例ですが、世間一般では今も「ビードロを吹く女」という呼称が圧倒的な知名度を誇ります。このギャップが生まれた最大の契機こそ、昭和30年(1955年)11月に郵政省が発行した記念切手「切手趣味週間 1955年」でした。
当時の郵政省は、日本の伝統美を世界および全国の郵便利用者に伝えるため、1948年の菱川師宣『見返り美人』、1949年の歌川広重『月に雁』に続く大型企画として本作を採用しました。その際、切手の公式名称として「ビードロを吹く娘(通称:ビードロを吹く女)」と名付けられたのです。戦後の復興期、庶民にとって本物の浮世絵を美術館で鑑賞する機会は限られていましたが、額面10円の切手として精緻なグラビア印刷で再現された名画は、瞬く間に全国のお茶の間を席巻しました。
郵便局の窓口には前夜から大行列ができ、即日完売が相次ぐなど、切手収集ブームの絶頂期を象徴するアイコンとなったことで、「ビードロを吹く女」という名前が日本人の集合的無意識に深く刻み込まれることになりました。