「手足口病と診断されたけれど、手のひらも口の中も綺麗で、足の裏やすねにしか発疹がない」という親御さんの声は、小児科の外来で頻繁に聞かれます。名前が体を表していないように思えるこの現象には、医学的な明確な根拠が存在します。
そもそも手足口病は、単一の病原体が引き起こす病気ではありません。主にエンテロウイルス属に分類される複数のウイルスが原因となって発症します。代表的なものとして、従来から典型的な手足口病を引き起こしてきたコクサッキーウイルスA16型(CA16)やエンテロウイルス71型(EV71)、そして近年の流行で主役となることが多いコクサッキーウイルスA6型(CA6)などが挙げられます。
足だけに発疹が集中する最大の要因は、このコクサッキーウイルスA6型(CA6)による非定型な感染パターンにあります。従来のCA16やEV71では手のひらや口腔粘膜に米粒大の小さな水疱が多発するのが教科書通りの所見でした。これに対してCA6型は、水疱が5ミリメートル前後の大粒になりやすく、さらに発現部位が手や口にとどまらず、足底、足の甲、膝関節周囲、大腿部、さらには臀部(おしり)へと強く偏向するという顕著な特徴を持っています。
また、ウイルスの侵入経路や体内の免疫反応の強弱によっても症状の出方は左右されます。口腔内の粘膜免疫が強固に働きウイルスの局所増殖を抑え込んだ結果、口内炎ができず、血流に乗って皮膚に到達したウイルスが足の末梢組織でのみ炎症反応(水疱形成)を励起するケースがあります。つまり、「手や口に出ていないから手足口病ではない」と考えるのは医学的に誤りであり、足だけに発疹が出る手足口病は十分に起こり得る典型的なバリエーションの一つなのです。