投与を開始した当事者が直面する最大の壁は、「思い描いていた理想の姿」と「過酷な生物学的現実」の圧倒的な乖離です。男性のホルモン治療で後悔する理由を紐解くと、単なる外見の変化にとどまらない、多面的な生活基盤の崩壊が浮き彫りになります。
第1に、女性ホルモンによる不可逆的変化としての乳房発達が挙げられます。エストロゲンの作用によって一度乳腺組織が形成されると、薬の服用を完全にストップしても元の平らな胸には戻りません。夏場に薄着になれない、公共の浴場やプールに行けない、健康診断の受診をためらうなど、男性としての日常行動に深刻な制限が生じます。
第2に、極めて深刻なのがホルモン補充療法による男性の不妊リスクです。外因性の女性ホルモンや抗アンドロゲン剤の投与は、脳の視床下部・下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌を強力に抑制し、精子形成機能を急激に低下させます。数カ月の連用で精液中の精子数がゼロに近くなり、長期間の投与では精細管の線維化が進み、二度と子どもを作れない身体になってしまう例が報告されています。将来、結婚や家庭構築を意識した段階で、取り返しのつかない喪失感に打ちのめされるケースが目立ちます。
第3に、急速なホルモン環境の変化に伴う男性の女性化に伴うメンタル悪化や鬱症状の頻発です。男性のバイタリティや精神的安定を支えていたテストステロンが急減することで、激しい抑うつ感、慢性疲労、意欲減退、突発的な感情失禁といった更年期障害様の症状が押し寄せます。仕事や学業を継続できなくなり、休職や退職に追い込まれる当事者は少なくありません。