なぜあえて挿入難易度が高く、管理に手のかかる十二指腸までチューブを進めなければならないのでしょうか。その根本的な理由は、「胃の蠕動低下や胃排出遅延が存在しても、腸管免疫と栄養吸収を維持し、かつ誤嚥を物理的に防ぐため」です。
食道と胃の間には下部食道括約筋、胃と十二指腸の間には幽門輪が存在します。胃内に大量の流動食が停滞すると、頭部挙上を行っていても噴門部から食道へと胃液混じりの栄養剤が逆流し、微小誤嚥(マイクロアスピレーション)を引き起こします。これが高齢者や重症患者における院内肺炎の大きな原因です。先端を十二指腸やトライツ靭帯を越えた空腸に留置すれば、栄養剤は胃を介さず直接腸管へ流れるため、EDチューブ誤嚥性肺炎予防の効果が飛躍的に高まります。
日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)のガイドライン等でも示されている代表的なEDチューブ適応疾患は次の通りです。
- 胃排出遅延・胃不全麻痺(ガストロパレシス):糖尿病性神経障害、腹部大手術後、重症オピオイド投与中など、胃の蠕動が著しく低下している病態。
- 重症急性膵炎:胃内に食物が入るとガストリン分泌等を介して膵外分泌が刺激され膵炎が悪化しますが、トライツ靭帯より遠位の空腸へ投与すれば膵臓を安静に保ちながら経腸栄養を早期開始できます。
- 胃切除後・幽門狭窄:胃癌術後や潰瘍瘢痕による狭窄があり、胃から先への通過障害が存在する症例。
- 難治性の胃食道逆流症(GERD)および誤嚥性肺炎の反復症例:胃管栄養中に頻回に嘔吐や誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者。
ここで臨床上見落としてはならないのが、成分栄養剤投与基準と浸透圧管理です。胃は本来、浸透圧を等張化し、胃酸で撹拌して少しずつ十二指腸へ送る「ダム」の役割を果たしています。EDチューブから直接腸管へ高浸透圧の栄養剤を一気に流し込むと、腸管内へ急激に水分が引き込まれ、激しい浸透圧性下痢や腹痛、いわゆるダンピング症候群を引き起こします。そのため、アミノ酸を主体としたエレンタールなどの成分栄養剤やペプチドを用いた消化態栄養剤を注入する際は、低濃度・低速度(20〜40mL/h)から段階的に開始する厳格なプロトコル遵守が求められます。