筑前煮の起源をたどると、旧筑前国である現在の福岡県北部で受け継がれてきた郷土料理「がめ煮」に行き着く。諸説あるものの、「よせあつめる」を意味する博多弁「がめくりこむ」や、かつてスッポン(ガメ)を入れて煮込んだことに由来するといわれる。農林水産省の「うちの郷土料理」データベースでも、地域の食文化を象徴する代表格として広く紹介されている名物だ。
一般的な煮物と決定的に異なるのは、具材をあらかじめ油で炒めてから煮上げる点にある。この炒める工程こそが、鶏肉のコクと根菜の甘みを閉じ込め、出汁全体の風味を飛躍的に高める秘密なのだ。福岡県の家庭で愛され続けてきたこの知恵が、昭和の高度経済成長期を経て全国の食卓へ普及し、「筑前煮」として定着していった。