1980年代初頭、日本中がひとりの少女の過酷な運命に息を呑んだ。NHKの連続テレビ小説として放送された『おしん』である。最高視聴率62.9%という、現在のテレビ事情では想像もつかない驚異的な数字を叩き出したこの作品は、単なる朝ドラの枠組みを遥かに超え、社会現象へと昇華した。
極貧の山形から奉公に出され、幾多の苦難に遭いながらも逞しく生き抜く主人公・おしん。その姿は日本国内にとどまらず、アジア、中東、中南米、アフリカなど世界数十カ国で放映され、国境や宗教の壁を越えて熱狂的な支持を集めた。なぜそこまで人々の琴線に触れたのか。それは、橋田壽賀子が描いたものが単なる美談ではなく、理不尽な現実と対峙する「個の尊厳」だったからに他ならない。
戦争の傷跡、貧困、女性ゆえの理不尽な抑圧。彼女自身が戦中・戦後を生き抜く中で味わった悔しさと飢えが、血肉となって物語に注ぎ込まれていた。過度な装飾を削ぎ落とし、生きることの残酷さと尊さをストレートにぶつける筆力こそが、世界中の人々の涙を絞り取ったのだ。