神社のすぐ西側に広がるのは、春になれば梅や桜の名所として賑わう荒山公園だ。市民の憩いの場として親しまれるこの公園と社叢は、かつて一体の聖域として守られてきた。散策路から境内へと歩みを進めると、木漏れ日の陰影が濃くなり、空気の肌触りが明らかに変わる。
主祭神として祀られているのは、多治速比売命である。記紀神話においても登場頻度が高い神ではない。それゆえに古代史愛好家や民俗学者の好奇心を刺激してやまない存在だ。女神としての慈愛、そして水の神や食物神としての神格を帯び、古代豪族・丹比氏(たじひし)の氏神として篤く敬われてきた。古い祭祀の痕跡を色濃く残すこの社殿の前に立つと、太古の人々がこの丘陵地帯にどのような祈りを捧げていたのか、その息遣いが肌に伝わってくるようだ。