晩年の野坂昭如氏の人生は、過酷な病魔との闘いの連続でした。大きな転機となったのは、2003年に発症した脳梗塞です。一時は命も危ぶまれる重篤な状態に陥り、一命を取り留めたものの、右半身の麻痺と言葉をうまく操れなくなる失語症という、作家にとってあまりに過酷な後遺症が残りました。
しかし、野坂氏は決して筆を折りませんでした。失われた身体機能を取り戻すため、過酷なリハビリテーションに挑み続けます。右手が自由に使えなくなると、左手で文字を書く練習を重ね、声が出づらくなれば懸命に発声訓練を行いました。
車椅子生活を余儀なくされながらも、毎日新聞に連載していた人気コラム「七転び八起き」をはじめとする執筆活動を継続。言葉を絞り出して妻に代筆してもらう口述筆記や、不自由な左手での入力を駆使し、亡くなった当日にも連載コラムの原稿を書き上げたばかりでした。発症から12年間に及ぶ闘病生活は、まさに表現者としての執念に満ちた日々だったと言えます。