なぜこのような致命的な見落としが起きたのか。レコード会社関係者やアートディレクションに携わる制作スタッフへの取材を進めると、長年培われたクリエイティブ至上主義とコンプライアンスチェックの乖離が浮き彫りになってきた。取材に応じた関係者は「アルバムのタイトルである『百薬の長』という言葉遊びから、医療や救護といったモチーフを安易に連想し、デザインの文脈だけで突っ走ってしまった」と舞台裏を明かす。
社内の権利確認や法務チェックにおいて、商標権や著作権といった私権の侵害有無ばかりに目が向き、公共性の高いピクトグラムや国際法上の保護標記に対するリテラシーが完全に抜け落ちていたという。この事件以降、音楽産業全体においてマーチャンダイズやアートワークの審査体制は劇的な見直しを迫られることとなり、アーティストの世界観を担保しながらも社会的責任をクリアするための多重チェック体制が業界標準として敷かれる契機となった。