昆虫飼育コミュニティや知恵袋等のQ&Aプラットフォームでは、「朝起きたらバッタの翅や足だけが転がっていた」「トノサマバッタが仲間の体をかじっていた」という悲痛な相談が毎年夏から秋にかけて急増します。草食性として分類されるバッタが、なぜ凄惨な共食いに走るのでしょうか。
取材と実態検証から見えてきたのは、主に3つの引き金です。
第1のトリガーは、極度のタンパク質・塩分不足です。バッタの主食である植物は炭水化物や繊維質が豊富ですが、筋肉や外骨格を形成するためのタンパク質はごくわずかしか含まれていません。野生環境であれば広範囲を移動しながら微細な有機物や死骸を舐めることで微量栄養素を補いますが、狭いケース内ではその補給路が断たれます。栄養バランスが極端に偏った個体は、最も手近なタンパク源として同居する仲間に襲いかかるのです。
第2のトリガーは、過密飼育と脱皮の無防備さです。バッタは成長の過程で数回の脱皮を行います。脱皮直後の個体は体が柔らかく、一切の反撃や逃走ができません。ケースの中に何匹も詰め込まれた状態では、飢えた他の個体にとって「極上の柔らかいエサ」に見えてしまいます。特にトノサマバッタのような大型種は顎の力が非常に強く、数分で同種を食害してしまいます。
第3の盲点は、キリギリス類との混同です。見た目が似ているため同じケースに入れられがちなキリギリスやヤブキリは、草食ではなく「極めて獰猛な肉食・雑食性昆虫」です。バッタの飼育ケースにキリギリスを1匹混入させただけで、一晩のうちにバッタが全滅させられる悲劇が現場では頻繁に起きています。触角が体長より長く糸状に伸びている個体はキリギリス類の可能性が高いため、絶対に同じケースで飼育してはなりません。