大相撲中継で平幕力士が横綱を寄り切った瞬間、客席から無数の四角い座布団が宙を舞う光景を目にしたことがある方は多いはずです。なぜ金星が出ると座布団が投げ込まれるのでしょうか。
この現象のルーツは、江戸時代から明治・大正期にかけて行われていた「投げ祝儀(通し・投げ草)」という伝統風習にあります。当時、贔屓(ひいき)の力士が見事な大金星を挙げると、興奮した観客は自らの羽織や財布、煙草入れなどを土俵めがけて投げ入れました。翌日、力士側がその品物を持ち主の元へ返却に行くと、持ち主から多額の祝儀(現金)が手渡されるという粋な応援システムでした。昭和以降、衣服を投げる習慣が廃れ、手近にある座布団を投げ込む形へと変化したと伝えられています。
ただし、現在の日本相撲協会では安全上の理由から座布団投げを明確に禁止しており、場内アナウンスでも度々注意が促されています。1枚あたり数キロある座布団が頭部に直撃すれば大怪我につながる危険があるためです。それでもなお、抑えきれない観客の熱狂によって座布団が舞ってしまう瞬間は、SNSや相撲コミュニティでも「これぞ大相撲の醍醐味」「テレビの前でも鳥肌が立った」と大きな盛り上がりを見せます。横綱戦の支度部屋を取材する記者によると、金星を挙げた力士の元には取組直後から数百件単位の祝福メッセージが殺到し、部屋全体がまるでお祭り騒ぎのような高揚感に包まれるといいます。