『カーネーション』を語るうえで最大のターニングポイントとなったのが、第22週(第127回)におけるヒロイン交代です。14歳の少女時代から60歳までを凄まじい熱量で演じ切った尾野真千子から、72歳を迎えた晩年の糸子役として夏木マリが登場した瞬間、お茶の間には激震が走りました。
当時、ネット上の一部掲示板や週刊誌では「撮影スケジュールの破綻による途中降板ではないか」「制作陣との確執があったのではないか」といった根拠のない憶測が飛び交いました。しかし、NHK関係者の証言や当時の制作統括・チーフ演出陣の公式インタビューにおいて、この交代劇は企画初期の段階から確定していた演出プランであったことが明かされています。
実在のモデルである小篠綾子は、70代、80代を迎えてなお驚異的なバイタリティで自らブランドを立ち上げ、92歳で亡くなる直前まで病院のベッドでデザイン画を描き続けた「怪物」のような人物でした。脚本の渡辺あやは、特殊メイクで高齢を偽るのではなく、実際に酸いも甘いも噛み分けた「本物の老年の骨格と生命力」を持つ圧倒的な存在感を求めたのです。
尾野真千子自身も、制作発表の段階から「60歳までを全力で駆け抜ける」という前提を共有して撮影に臨んでいました。夏木マリへとバトンが渡された第127回以降、晩年の糸子は「ただ老いて枯れる」のではなく、だんじりの大工方を思わせる野太い凄みと風格を獲得し、物語は重厚なフィナーレへと向かうことになりました。