1970年代中盤の日本映画界において、『五月みどりのかまきり夫人の告白』がもたらした衝撃は類を見ない規模でした。本作が社会現象となった最大の要因は、昭和の歌謡界で「国民的清純派お座敷歌手」として定着していた五月みどりのイメージを、180度根底から覆す背徳的なキャラクター造形にありました。カマキリのメスが交尾の後にオスを喰い殺すという生態を、男たちを性的に翻弄し破滅へと導く妖艶な未亡人の姿に重ね合わせたプロットは、観客の背徳感を極限まで刺激したのです。
配給の東映が仕掛けた興行戦略も極めて巧みでした。本作は、菅原文太主演の大ヒット実録ヤクザ路線『新仁義なき戦い 組長の首』との豪華2本立てとして劇場公開されました。映画館には任侠映画を求めて押し寄せた男性観客が詰めかけ、息をのむような五月みどりの体当たり演技に圧倒される事態となったのです。劇場関係者の当時の記録によると、立ち見が出るほどの超満員が連日続き、東映京都撮影所が放った異色の一般映画枠企画として異例の配給収入を叩き出しました。
メディアは彼女に「かまきり夫人」という強烈なレッテルを貼りましたが、それは侮蔑ではなく、世の男性たちを虜にする圧倒的なフェロモンへの賛辞へと変わっていきました。昼のワイドショーから週刊誌のグラビアまでを独占し、女性誌ですら「自立した成熟女性の新しい官能美」として特集を組むなど、映画の枠を越えた社会的なトレンドへと昇華していったのです。