膨大な領域と多様な民族を治めたローマ帝国。その最盛期たる「五賢帝時代」の締めくくりを担ったのが、第16代皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスだ。彼は権力の中枢にありながら過美な暮らしを好まず、常に自己の精神を磨き続ける真摯な人物だった。
しかし、彼の治世は決して平穏ではなかった。異民族の侵入による度重なる戦争、帝国全土を襲った大疫病、そして内部からの反乱。絶え間ない危機に見舞われ、北方の凄惨な前線基地で夜な夜な羊皮紙に綴られたのが、他人に読ませるためではない自らへの戒め――すなわち『自省録』であった。孤独な夜に己の弱さと向き合い続けた男の軌跡が、ここにある。