金子文子の突然の訃報を知り、誰よりも早く動き出したのが「弱き者の弁護士」として知られる布施辰治であった。布施は大逆事件の裁判において二人の弁護人を務め、権力の暴走から彼らの人間的尊厳を守るために命がけの法廷闘争を展開した人物である。
文子の急死という知らせを受けた布施は、直ちに栃木刑務所へ急行した。当局が不審な形で処理しようとした遺体を奔走して引き取り、遺骨の奪取を防いだ。彼女の遺志を継いだ布施らの手によって、遺骨は朴烈の故郷である慶尚北道聞慶(ムンギョン)へと無事に運ばれ、異国の地で安らかな眠りにつくこととなったのである。