生魚を芸術的な料理へと押し上げるのが、お造りの盛り付け方の基本です。日本料理の造り付けには「山高(やまだか)盛り」と呼ばれる大原則があります。器の奥を高く、手前を低く配置し、遠近感と立体感を演出する手法です。さらに奇数盛り(3点、5点、7点)が重んじられます。これは陰陽思想において奇数が「陽(縁起が良い数字)」とされるためです。
盛り付けに欠かせないのが「あしらい」です。これらは単なる彩りではなく、殺菌作用と消化促進を計算した機能的な役割を持っています。
- つま(妻):大根、人参、キュウリなどの千切りや海藻。魚の水分(ドリップ)を吸収し、口内をさっぱりとリセットさせる。
- けん(剣):つまの中でも、特に針のように鋭角に細く切られた大根などを指す。
- 辛味:本わさび、生姜、からしなど。魚の脂を中和し、抗菌作用を発揮する。
- 吸い口・飾り:大葉、紫蘇の芽、花穂紫蘇、すだち、食用菊など。季節感を演出し、食欲を刺激する芳香を添える。
次に、会席料理におけるお造りの役割を考察します。会席料理において、お造りは通常「向付(むこうづけ)」または「お造り」として、先附(前菜)や椀物の後に登場します。向付とは、折敷(おしき=膳)の向こう側に置く器を意味し、酒宴において「最初にお酒を口にしながら味わう主菜」としての重要な役割を担っています。
ここで知っておくべきは、日本料理の配膳マナーと作法です。盛り合わせを口にする際は、淡白な味わいの白身魚(タイやヒラメ)から始め、次第に脂の乗った光り物や赤身(マグロ)、最後に濃厚な貝類やウニへと進めるのが鉄則です。濃厚な魚から先に口にすると、繊細な白身魚の旨味や甘みを感じ取れなくなってしまうためです。
また、多くの方が無意識にやってしまう「醤油にわさびを溶く」所作は、本来の作法ではマナー違反と見なされます。わさびを醤油に溶かすと、醤油全体が濁るだけでなく、わさび本来の揮発性のある爽快な香りが失われてしまうからです。適量のわさびを箸で取り、切り身の上に直接乗せてから、身の半分ほどに醤油を軽く浸して口へ運ぶのが、最も素材の風味を活かすスマートな嗜み方です。