近年、消費者の心を癒やしてきた『孤独のグルメ』的な「食の多幸感」とは真逆のベクトルに本作はある。スクリーンに映し出される牛の舌は、単なる美味の対象ではない。命を奪い、解体し、血を抜き、自らの肉体へと取り込む――人間が生きるために行使する原初的な暴力を容赦なく突きつけてくる。
丹念な取材に基づいて構築された描写は、一見すると極めて上質な食文化ドキュメンタリーの佇まいを見せる。しかし、その客観的な視線こそが、観る者に強烈な居心地の悪さを強いる。私たちが普段スーパーや焼肉店で何気なく口にしている食材の裏側にある「業」を、美しくも残酷な映像美で炙り出す試みは、グルメブームに沸く現代社会への痛烈なカウンターと言える。