東洋哲学の根幹を成す思想として欠かせないのが、老子が提唱した「無為自然」である。人為的な駆け引きや無理な作為を捨て、宇宙の流れに身を任せるこの態度は、情報過多な現代において新たなストレスマネジメントの指針としても再評価が進む。
文字としての「無」の成り立ちを紐解くと、さらに深い世界が見えてくる。漢字学の権威である白川静の解明によれば、「無」の原字は舞踊を舞う巫女の姿を象形化したものだった。存在の「有」に対する「無」という抽象的な概念は、神への祈りやトランス状態という目に見えない世界を象徴する漢字から派生したとされる。古人が漢字の一字一字に込めた動的なエネルギーを知ることで、熟語の味わいは一層深まる。