足音の大きさを左右する最大の要因は、歩く速度でも体重でもなく「かかとからの着地方法」にある。足裏全体ではなく、かかとの骨(踵骨)からダイレクトに床へ体重を落とし込む歩き方は、骨伝導と建物構造を通じて階下に強烈な衝撃波を叩き込む。体重40キロ台の小柄な人物であっても、歩き方ひとつで巨漢が踏み鳴らすような打撃音を生み出してしまうのはこのためだ。
恐ろしいのは、本人にはその音がほとんど聞こえていないことだ。人間の耳は自分の体内で発生する音や、日常的に聞き慣れた行動音を脳内でキャンセルする機能を備えている。耳の真下にある足元からの衝撃音は、本人の脳内では単なる「移動の振動」として処理されてしまい、階下でスピーカーのように増幅されて響いている事実には思い至らない。