向井理の若い頃の経歴は、他の俳優と比べても極めて異色です。明治大学農学部で生命科学を専攻し、卒業後は都内のバーでバーテンダーや店長を務めていたところをスカウトされ、2006年に芸能界入りを果たしました。つまり、『のだめカンタービレ』への出演はデビュー初年度に訪れた大チャンスだったのです。
当時のインタビューや特番での証言によると、オーディションで菊池亨役に選ばれた瞬間から、過酷なチェロ特訓の日々が始まりました。バイオリンやフルートと異なり、チェロは大型の弦楽器であり、構え方一つで演奏者のレベルが画面越しに伝わってしまいます。向井理はクランクインまでの数週間、指導講師のもとで指の皮が擦り切れるほどの猛練習を重ね、クラシック音楽特有の運弓(ボーイング)やポジション移動を身体に叩き込みました。
画面で見せた指の動きや演奏中の恍惚とした表情は、単なる演技の枠を超えたリアリティを帯びており、スタッフや共演者を唸らせました。この現場で見せたストイックな役作りへの姿勢こそが、後のブレイクのきっかけとなる確かな信頼を築いたといえます。