この蔵を語る上で絶対に外せないのが山廃仕込み(山卸廃止仕込み)だ。近代的な速醸酛(そくじょうもと)が醸造用乳酸を添加して安全・迅速に酒母を育てるのに対し、山廃は蔵の中に自生する天然の乳酸菌を取り込み、長い時間をかけて育成する。途中で雑菌に侵されるリスクと隣り合わせの、極めて繊細で過酷な製法である。
かつて名杜氏として蔵の黄金期を築いた大島五秀氏の薫陶を受け、その魂と技術を受け継いだ杜氏の田中富男氏が陣頭指揮を執る。二人が守り、磨き上げてきたのは、単に古いやり方をなぞるだけの伝統ではない。現代の醸造科学の視点を織り交ぜながら、より研ぎ澄まされた酸と芳醇なアミノ酸の調和を追求している。約一ヶ月にも及ぶ酒母造りの末に完成する液体は、力強い骨格と、どこまでも広がるクリーミーな旨味を併せ持つ。新潟清酒の既成概念を心地よく裏切る豊潤さの秘密は、この自然界の微生物との真剣勝負にあった。