ネット上では「映画『正体』は実話に基づいた事件なのか?」という疑問が度々取り沙汰されます。結論から言えば、本作は完全なフィクション作品です。しかし、日本で過去に起きた複数の凶悪脱走劇や、逃亡犯が名前を変えて各地の工事現場などを転々としていた実際の逃走手口、さらには歴史的な冤罪事件の記録などが徹底的にリサーチされ、リアルなディテールとして物語に組み込まれています。この徹底した現実感が、観客に「いま現実に起きている出来事」であるかのような錯覚を抱かせます。
メガホンを取った藤井道人監督は、『新聞記者』『余命10年』などで見せた映像美と情緒的な演出力を本作でも遺憾なく発揮。冷たい冬の空気感や逃走の焦燥感をスリリングに描きつつ、人と人が触れ合う瞬間の温もりを光と影のコントラストでエモーショナルに映し出しました。
そして、映画の余韻を決定づけるのが、人気バンド・ヨルシカが書き下ろした主題歌『太陽』です。逃亡の果てに鏑木が求めた光と、過酷な運命の中でも失われなかった優しさを包み込むような澄んだ歌声とメロディが、エンドロールで観客の心を静かに満たします。