「感染者が入った後の湯船に浸かるとうつるのか」という疑問に対し、感染症の知見から導き出される結論は「お湯そのものを介して感染する可能性は極めて低い」ということです。インフルエンザウイルスはエンベロープ(脂質二重膜)を持つウイルスであり、熱や石鹸成分、塩素に非常に弱い特性を持っています。湯船の温水の中では長時間の生存が難しく、お湯を大量に誤飲しない限り、湯船からの水系感染はほぼ起きません。
しかし、安心するのは禁物です。本当の危険は「お湯」ではなく、浴室という密閉空間における飛沫感染と接触感染にあります。入浴中は誰もがマスクを外します。換気が不十分な狭い浴室で咳やくしゃみをすれば、空気中に飛散した微粒子(エアロゾル)を健康な家族が直接吸い込む事態になりかねません。
「浴室は湿度が高いからウイルスが弱まるはず」と誤解するケースもあります。確かに浴室の高い湿度はウイルスの生存力を下げる要因になりますが、密室で至近距離から浴びる飛沫に対しては湿度による防御効果はほとんど期待できません。空間そのものが感染源になり得る前提で対策を講じる必要があります。