ケルト音楽が放つ独特の哀愁と祝祭感は、そこで用いられる固有の楽器群と独自の奏法によって形作られています。いずれの楽器も、近代西洋音楽の「平均律」や「完全な均質性」を目指す進化とは一線を画し、木や金属、動物の皮が持つ生の質感をありのままに残しています。
まず手軽さと奥深さで世界中のファンを惹きつけるのがティンホイッスルです。わずか6つの指穴を持つブリキ(または真鍮)製の安価な縦笛でありながら、息の強弱だけで2オクターブ以上の音域を駆け巡ります。指先を細かく叩きつける「カット」や「タップ」、指を滑らせて音程を無段階に変化させる「スライド」を駆使することで、鳥のさえずりのような装飾音から咽び泣くような哀傷の溜息まで、驚くほど多彩な表現を可能にします。
そしてアイルランドの国家紋章(ギネスビールのロゴでも有名)にも指定されているのがアイリッシュハープです。クラシックの巨大なグランドハープと異なり、膝の上や小さな台に置いて演奏する小型のフレームハープです。古代のハープは真鍮(ブラス)のワイヤー弦を伸ばした指の爪で弾き、鐘の余韻のような長く豊かなサステイン(残響)を響かせていましたが、現代ではナイロン弦やガット弦が主流となり、素朴で透明感のあるアルペジオが聴く者の心を洗います。
管楽器の頂点に君臨するバグパイプにも、目的に応じたバリエーションがあります。スコットランドの「グレート・ハイランド・バグパイプ」が口から息を吹き込んで革袋を膨らませ、野外の軍楽として鼓膜を震わせる爆音を放つのに対し、アイルランドの「イーリアンパイプス(肘のパイプの意)」は、右肘に装着した鞴(ふいご)で空気を送り込みます。座奏専用で音量は室内向けに抑えられており、親指でレギュレーターと呼ばれる鍵盤を叩いて和音を伴奏しながら、極めて哀切で人間的な歌声に近い旋律を奏でます。
さらに見逃せないのがバイオリンと同じ楽器を用いながら全く別次元の音響を紡ぐフィドル奏法です。クラシックのような豊かなヴィブラートや顎でしっかり挟み込む固定姿勢を排し、胸元で楽器をラフに構え、弓の元から先までを短く小刻みに使ってリズムを刻みます。一定の低音を持続させる「ドローン効果」を二重奏(重音奏法)で鳴らし続けることで、バグパイプの倍音構造を弦の上で再現しているのです。