海況の急変はあまりにも唐突だった。数年前から顕著になった海洋温暖化の影響で、黒潮の流路は過去に例を見ない蛇行を繰り返し、三陸沖の潮境では局所的な乱気流と猛烈な高波が頻発するようになっていた。現場海域の気圧は半日で30ヘクトパスカル以上も急降下。波高は瞬く間に8メートルを超えた。
ドーンという鈍い轟音とともに大波が操舵室の防舷ガラスを叩き割ったのは、日付が変わる直前だったという。海水が一気に電子機器へとなだれ込み、主電源がショート。暗黒に包まれた船内で、非常用遭難信号だけが夜空の衛星へ向けて無機質な電子音を打ち鳴らし続けた。周りには救助の手を差し伸べられる僚船の姿は一隻もない。完全な孤立無援だった。