二人の足跡を紐解く上で、まず押さえておくべきなのが藤本弘(ふじもと・ひろし)と安孫子素雄(あびこ・もとお)というそれぞれの本名、そして驚くほど対照的な作家性です。少年時代に富山県高岡市で出会った二人は、手塚治虫に憧れて「手塚不二雄」「足塚不二雄」といった共同ペンネームを経て、やがて「藤子不二雄」として名乗りを上げました。しかし、同じ看板を背負いながらも、内面から湧き出るクリエイティビティのベクトルはまったく別の方角を向いていました。
藤子・F・不二雄(藤本弘)の真骨頂は、自身が提唱した「SF(すこし・ふしぎ)」の精神に基づく児童漫画にあります。『ドラえもん』『パーマン』『キテレツ大百科』『エスパー魔美』に代表されるように、平凡な日常の中に突如として非日常が舞い込み、科学的好奇心や冒険心をくすぐりながら最後は日常へと回帰していく構成美を徹底しました。徹底した読者目線と緻密なプロット、そして子どもたちの善性をどこまでも信じる作風は、今も世界中のファンを魅了してやみません。
一方の藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)は、人間の内面に潜む情念、哀愁、そしてダークサイドを生々しくあぶり出す作風で異彩を放ちました。『忍者ハットリくん』や『怪物くん』といったキャッチーな少年漫画で大ヒットを飛ばす一方で、青年の鬱屈を描いた『まんが道』、そして人間の欲望と破滅を容赦なく描いた『笑ゥせぇるすまん』などのブラックユーモア短編で独自の地位を築き上げました。
作画スタイルにおいても、F氏が定規とコンパスで設計されたかのような洗練された曲線美と幾何学的な安定感を好んだのに対し、Ⓐ氏は肉太な筆致、劇画調の陰影、そして怪奇的な歪みを大胆に取り入れています。記号化された可愛らしさの奥に宇宙的な広がりを持たせたF作品と、泥臭い人間味と不条理な毒を孕んだⒶ作品。この強烈な個性差こそが、のちに二人がそれぞれ独立した道を歩む決定的な原動力となりました。