温室を出て雑木林へ足を踏み入れると、そこにはクヌギやコナラ、手入れの行き届いた棚田、小川、茅葺き屋根の民家が点在している。昭和初期の日本の農村風景そのものだ。だが、この景観は単なるノスタルジーの再現ではない。昆虫たちが命をつなぐために不可欠な「環境のモザイク構造」を意図的に維持し続ける、極めて高度な実験場でもある。
草を刈り、落ち葉をかき、適度に人の手を入れることでしか生き残れない昆虫がいる。放置された暗い森では姿を消してしまう国蝶オオムラサキや、水田の水路を頼るゲンゴロウ類。手入れを怠れば里山はあっという間に荒れ果て、虫たちも去る。園内のスタッフやボランティアの手によって日々維持されるこの広大な敷地は、日本列島から失われつつある原固有種の避難所として機能しているのだ。