明治30年代から40年代にかけ、文芸誌『文芸倶楽部』の巻頭を飾った木版口絵は、当時の青年たちにとって現代のグラビアやアートポスター以上の熱狂の対象でした。泉鏡花をはじめとする人気作家の小説世界を、わずか1枚の絵で表現し尽くす英朋の口絵は、雑誌の売れ行きを左右するほどの力を持っていました。
英朋の口絵の凄みは、細密な筆致と木版技術のせめぎ合いにあります。流れるような後れ毛の一筋、着物の複雑な文様、瞳の奥に宿る光彩まで、寸分の狂いもなく版木に彫り込ませ、絶妙なグラデーションで摺り上げさせるディレクション力は異次元のレベルでした。
当時の彫師や摺師たちにとっても、英朋の下絵を再現することは自らの腕を試す最高峰の挑戦でした。印刷工房の職人たちと徹底的にぶつかり合いながら生み出された木版口絵は、大量複製品でありながら、一枚一枚が一回性の美術品と呼べる熱量を帯びています。