文法用語としての「音便」を一言で定義するなら、語の中で発音しにくい連続音が生じた際、言いやすい音へと変化する現象を指します。平安時代以降の日本語において、会話や歌の中でスムーズに発音するために自然発生的に定着した歴史的な変化です。
代表的な発生場面が、動詞や形容詞の連用形に助詞の「て」「たり」や助動詞の「た」などが接続するタイミングです。例えば、カ行五段活用動詞「書く」の連用形は「書き」ですが、助詞「て」をそのままつなげると「書きて(かきて)」となります。これを素早く発音しようとすると舌の動きに負担がかかるため、自然と「書いて(かいて)」へと変化しました。これが音便の基本的な仕組みです。
音便は決して学習者を悩ませるための難解なルールではなく、「発音のしやすさ(調音の便宜)」を追求した先人たちの言語の知恵と言えます。