「庭をすっきりさせようと伸びた枝を途中で切り詰めたら、翌春にその枝から一切芽が出ず、木全体が弱ってしまった」——。これは家庭菜園や一般園芸の経験者が最も陥りやすい典型的な失敗事例です。松の剪定で失敗する理由の根底には、落葉広葉樹と針葉樹における決定的な発芽メカニズムの違いがあります。
ケヤキやサルスベリなどの広葉樹は、葉のない太い幹や枝の途中で切断しても、樹皮の下にある休眠芽が刺激されて再び芽吹く「胴吹き(どうぶき)」が容易に起きます。ところが、松をはじめとする多くのマツ科植物は、「緑の葉(針葉)が残っていない古い枝からは基本的に不定芽が出ない」という厳格な生理的制約を持っています。葉が付いている分岐点より手前で枝を切断すると、その枝には養分を引き上げるポンプ機能が働かず、先端からそのまま枯れ落ちるしかありません。
現場歴35年を超える都内のベテラン庭師は、次のように取材に答えています。
「素人さんが良かれと思ってノコギリで太枝を短く詰めてしまうのが、松が枯れる決定的な原因の8割を占めます。松にとって葉のひとかたまりは、水と養分を吸い上げるための命綱。葉を根こそぎ落とされた枝は、自力で息を吹き返すことができません」
さらに、もうひとつの見落とされがちな要因が「内部の蒸れと日照不足」です。手入れを怠って古葉や不要な小枝が密生すると、内側の枝に日光が全く当たらなくなります。光合成ができなくなった懐枝(ふところえだ)から徐々に茶色く枯れ上がり、気がついたときには外側の輪郭付近にしか葉がない「骨と皮」のような樹形に成り果ててしまうのです。