澄み切っているのに、深みがある。濃密なのに、後味はどこまでも軽い。言葉にすれば矛盾するようなスープの味わいこそ、スープ作りの常識を塗り替えた独自の境地だ。
多くの店が効率を求めてスープのベースを外部委託するか、強火で一気に炊き上げる濃厚豚骨に走るなか、徹底的な温度管理と素材の投入タイミングの微調整に命を削る。早朝3時、静まり返った厨房で店主が鍋と向き合う姿は、料理人というよりも精密な実験を繰り返す科学者のそれに近い。一口すすると、まず鶏のまろやかな旨味が口いっぱいに広がり、続いて魚介の繊細な香味が鼻を抜ける。二重三重に計算された旨味のレイヤーが、飲む者を惹きつけて離さない。