「精神科を初めて受診したとき、診断名は中等度のうつ病でした。処方された抗うつ薬を飲み続けましたが、気分が晴れるどころか、周囲の話し声がすべて自分の悪口に聞こえるようになり、数か月後に統合失調症と再診断されました」
これは、都内のデイケアに通う30代男性が当事者手記で明かした生々しい告白です。インターネットの相談掲示板や知恵袋、SNS上でも「うつ病と診断されていたが数年後に統合失調症と言われた」「家族の引きこもりをうつ病だと思い込んで放置してしまった」という当事者・家族の痛切な投稿が絶えません。なぜこれほどまでに、うつ病と統合失調症の誤診理由が後を絶たないのでしょうか。
その背景には、統合失調症の発症プロセス特有の構造があります。本格的な幻覚や妄想(陽性症状)が噴出する前段階として、数か月から数年にわたる「前駆期」が存在します。この時期には以下のような統合失調症の初期症状チェック項目に該当する異変が現れます。
【見逃してはならない初期症状チェック】
・集中力が極端に落ち、本や映像の内容が頭に入らない
・人混みや周囲の視線に異常な居心地の悪さを覚える
・身だしなみや衛生管理に無関心になり、入浴を嫌がる
・「世界が以前と違って見える」「不吉な予感がする」という漠然とした違和感(トレマ期)
・感情の起伏が乏しくなり、家族の会話に生気のない返答しかできない
この前駆期や、急性期が過ぎ去った後に訪れる消耗期(慢性期)に見られる認知機能障害と意欲低下の経緯は、外見上、うつ病患者の意欲喪失や倦怠感と見分けがつきません。患者本人も幻聴や被害関係妄想を「恥ずかしい」「おかしいと思われる」と感じて主治医に秘匿することが多く、表層の「眠れない」「やる気が出ない」という訴えだけをすくい取ると、医師であってもうつ病と初期診断を下してしまうケースが生じるのです。